薬を取っている男性

性感染症の病原体の多くは細菌またはウイルスで、いずれも人から人に伝染して増殖を繰り返します。病原体に感染して体の中で増殖すると、炎症が起こって病気の症状が発症します。性器ヘルペスも性感染症のひとつで、これは単純ヘルペスウイルスが原因で起こる疾患です。このウイルスに感染して発症すると、ほとんどの人は唇や性器の周辺にチクチクとした強い痛みをともなう水疱(みずぶくれ)や潰瘍(びらん)ができます。細菌感染症であれば抗菌薬(抗生物質)を服用して治療をすることができますが、ヘルペスの場合は病原体がウイルスなので抗菌薬を服用しても治療効果がありません。

性器や口内・口の周辺の皮膚にヘルペスが発症した場合、抗菌薬で治療をすることはできません。このため、多くの患者は自然治癒するまで痛みの症状を我慢しています。ヘルペスが発症しても、十分な免疫力を持っている人であれば1~3週間ほどで自然治癒します。ただし、ヘルペスの症状が治まったとしても、ウイルスは体内に残留し続けるので再発を繰り返す恐れがあります。

抗菌薬でヘルペスの治療をおこなうことはできませんが、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬を使用すれば治癒を早めることが可能です。アシクロビルは世界初の抗ウイルス薬で、体内でヘルペスの病原体が増殖する作用を阻止する働きがあります。発症初期の段階でこの薬を服用または患部に塗布すれば、治癒までの期間を短縮することができます。ゾビラックスはアシクロビルが配合された医薬品で、錠剤または軟膏タイプの薬があります。ヘルペスが発症した時にゾビラックスを服用して治療を開始すれば、数日程度で治癒させることが可能です。ゾビラックスの有効成分のアシクロビルは、ウイルスに感染した細胞内で病原体の複製を阻止することで治療効果を発揮します。

単純ヘルペスウイルスの構造は、遺伝情報が書き込まれたDNAと遺伝子を覆う殻で出来ています。ウイルスのDNAには、宿主の細胞で自らの複製を作成するためのプログラムが書き込まれています。ウイルスが人間の細胞に取り込まれると、細胞内のDNAの情報を書き換えてから複製をおこなうためのプログラムを実行して増殖を開始します。アシクロビルの成分は体内で三リン酸体に変化して、ウイルスに感染した細胞内で増殖を阻止する働きがあります。単純ヘルペスウイルスがヒトの細胞に感染して増殖をする際に、ウイルスのDNAを複製します。遺伝子のコピーを作成する際に、材料である核酸を順番につないでDNA鎖を伸ばして合成します。

体内でアシクロビルから生成される三リン酸体の分子は、DNAの材料のひとつであるデオキシグアノシン三リン酸(dGTP)と構造がよく似ています。dGTPが作成途中のDNAに結合すると別の一端が他の核酸と結合することで、核酸が数珠つなぎに結合してDNAが伸長します。これに対してアシクロビルが変化した三リン酸体の一端が作成途中のDNA鎖に結合すると、もう片方の側に別の核酸が結合することができないという性質があります。アシクロビル三リン酸が細胞内に取り込まれて作成途中のDNAに結合すると、DNA鎖を伸ばすことができなくなってしまいます。DNAが短いままだとデータの記録容量が不足してしまい、ウイルスのコピーを作ることができなくなるので増殖が阻止されます。

ゾビラックスの有効成分のアシクロビルは、体内でヘルペスウイルスが増殖をする働きを防ぐ効果があります。このため、ヘルペスの発症初期に服用すればウイルスの増殖を阻止することで短期間で治癒させることができます。アシクロビルは完成したウイルスを破壊して不活性化することはできないので、ウイルスが活発に増殖する発症初期に服用しなければ治療効果を発揮することができません。